(物理法則)
内なる感覚を高めたら、外に働く物理法則、力の存在を感じ取るようにして見ましょう。
冬季五輪の中継でも様々な物理法則と力を垣間見ることが出来ました。
スキーの滑走は重力、ジャンプは慣性、フィギュアの回転での遠心力、カーリングのストーンでの摩擦、スピードスケートの氷を押して進む作用と反作用など幾つも上がってきます。
これらの物理法則、力の存在を感じながらスポーツ動作を行うことが上達には不可欠です。
そのうちの分かりやすい幾つかを説明していきましょう。
重力(引力)/動きは重さの制御
地球上のありとあらゆるもの全てが重力に影響を受けていて、全てのスポーツ、運動もその例外ではありません。自分の体、姿勢を支える、腕や脚を動かすということは重力に抗することだと言えます。体は筋力によって動きますが、その部位の質量を動かしているとも言えます。
頭の重さって感じますか?腕の、脚の重さはどうでしょうか?
体重における各部位の比率は、標準的なデータとして下記のように言われています。
・頭部7%
・胴体43%
・上肢6.5%(上腕3.5%、前腕2.3%、掌・手指0.8%)
・下肢18.5%(大腿11.5%、下腿5.2%、足1.8%)
例えば体重65kgでしたら、
・頭部4.55kg
・胴体27.95kg
・上肢4.3kg(上腕2.28、前腕1.50kg、掌・手指0.52kg)
・下肢12.03kg(大腿7.48kg、下腿3.38kg、足1.17kg)
頭は4〜5kg、腕も4〜5kg、脚は12〜13kgもあります。これらをどう支え、どう動かすかで筋肉や関節の負担、エネルギー消費も変わってくることが想像出来ます。
これらの体の動きは「重さの移動を伴う=重さを移動させること」とも言え、スポーツ動作はすべからく重心(重さの中心)移動なのです。
ですから、重さの中心はどこにあり、それをどこに位置させるか、を感じながら動くことが重要です。体全体が立位で動くときはおへそと背中の間に重心(姿勢変化によって変化する)、腕を動かすときは肘に重心があり、脚を動かすときは膝にそれぞれの重心位置をコントロールする意識を持ちたいところであり、体の動きをコントロールするということは重さの制御とも言えるのです。
作用と反作用/押す力で押され、引く力で引かれている
重力のように、力には方向性と大きさがあります、所謂ベクトルと言われるものです。
例えば腕の筋力で床に置かれた箱を押すときにも、向きと力の大きさを感じることが出来るでしょう。この時、箱の重心に向かってまっすぐ押すとまっすぐ箱は押せるし、重心を外すと箱が斜めに動いてしまいます。
また、箱を押すと自分も押し返される感じがして、それに耐えて自分は動かないで踏ん張ると箱が押されて動いていくことも感じられるはず。これが力の作用と反作用になります。
ランニングで体が前に進むのは、着地の力で地面を押す作用の反作用で体が前に押されて進んでいます。スイムでは水に加えた力の作用反作用で前に進んでいくのです。野球のボールがバットに当たり跳ね返って飛んでいくのも、ピッチャーの球の力をバットで跳ね返すことで飛んでいきますし、鉄棒の懸垂は鉄棒を体重と見合う力で引くことで鉄棒に引かれて体が上がります。
このように全ての運動は作用と反作用で成り立っているので、前述のベクトル、力の向きと大きさと長さ、どちらにどれくらいなのかを感じながら、押して押される、引いて引かれるを確かめながら行う必要があります。
この向きがズレるとランは前ではなく上に押されて上下動になったり、体の前に着くと前から後ろに押されるのでブレーキとして働いてしまいます。あるいは地面を長く押し続けると筋肉の緊張や関節の負担となって体に跳ね返ってきます。
スイムでは上手く掻けないと進まなかったり、上下動や左右へのブレになりますし、野球では綺麗に打ち返せばホームラン、当たる向きがズレるとファールやチップ、バットの構造的に弱い部分に当てたら折れる、または痺れが手に返ってくるということになります。
筋力に任せて、力を強く長く間違った方向に加えていてはスポーツは決して上手くなりません。
スポーツでは実際、フィジカルは重要ではありますが、筋力体力勝負と考える前に、また体の使い方と言って「〇〇筋を使う」という意識をして筋緊張を増やすことを良しとしないで、力をかける相手に気を配り、作用と反作用・返される力を感じ取り適量のみ加えていくようにしたいものです。
抵抗をかけない/重力抵抗、摩擦抵抗、流体抵抗
息も切らさず速く走ったりするパフォーマンスの高い人は体力があるから余裕があると考えがちですが、動きに無駄がなくエネルギーの損失を抑えて運動しているのではないでしょうか。
エネルギー保存の法則として言われる通り、筋力として発揮されたエネルギーはどこかに伝わり保存されます。それが適切な力と速さとしてパワー(仕事率)に変換されていればパフォーマンスが高くなりますが、そうでなければどこかに負の力、抵抗となっているはず。
スイムの下手なバタ足で脚の筋力目一杯に水を蹴っても、むしろ水をかき混ぜて抵抗を生み出したり、水面下に下がった脚に進む際の水流が当たりやはり抵抗となってしまうことは痛いほどに分かりやすい例でしょう、まるで溺れているかの様に。。。
筋力を増すためにストレングストレーニングで筋肉をつけても実際の種目の動作と出力発揮を出来なければ、体に重りをつける様なものでランなど体を運ぶ種目にとっては重力抵抗を増やすだけの結果となり、特に体を持ち上げる様な上り坂では致命傷になります。
スムーズに動くものに対してこすりつける様な力のかけ方も余計な摩擦を増やします。シューズの底を地面に擦って歩いたり走ったりも摩擦を生んでますし、自転車のペダリングでペダルを下死点で踏みつけても回転軸やフレームなどに摩擦をかけてしまっています。
自分が頑張って目一杯力を発揮すること、自分の努力感に陶酔することなく、力を加える対象物に気を配り、必要な方向に、必要な強さと、必要な長さで過不足なくかけられる様に“足るを知る”ことです。
自分の体の外にある見えない力にも目を向け、感じ取れたらスポーツは間違いなく上達することでしょう。